家族とおしゃべりする時間

ハッピーエンドを
お風呂から

  • #やさしい妖怪
  • #お父さんとお母さんがいない日
  • #リフォーム
  • #ラクテク

お兄ちゃんと二人きりの夜に話し相手が現れた。だけど、お風呂をリフォームしたら…。

留守番した夜

「おうちの人が心配するから早く帰りなさい」
友達の家から帰るとき、そんなふうに言われたけど、今夜は、お兄ちゃんと二人きり。
お父さんもお母さんも仕事が忙しくて、ときどき帰りが遅くなる。

“冷蔵庫に唐揚げと卵焼きが入ってるよ”
私が家に帰ると、お兄ちゃんがお母さんのメモを見て晩ごはんを並べていた。
お兄ちゃんと一緒に食べると、私は一人でお風呂に入った。

顔をあげたら目の前に

「びちゃ、ぴちゃ」

目をつぶって髪を洗っていると妙な音がした。
「なんだろう?」
思い切って顔をあげたら、しわくちゃな生き物が壁のタイルにびたりと張り付いていた。
大きな舌をベロンと出して。
名前をたずねると「あかなめだ」と答え、コホンと咳払いして「この家はお風呂が汚れているから、ときどき来るんだ」と言った。

あかなめは妖怪図鑑で見たことがある。お風呂の汚れを食べる妖怪。
図鑑の姿はギョロ目だったけど、本物は目が小さくて自信がなさそう。
「そんなにじろじろ見ないでくれ」
モジモジし始めたあかなめは、顔をぱっと赤らめて消えていった。 

ホントの話なのに

さっそくお兄ちゃんに報告したら「そういう話は嫌いだからやめて」と怖がった。
次の日の朝、お父さんとお母さんに言ったら「うちには妖怪なんていない」と断言された。

やさしい妖怪

それからは、「寂しいな」と感じる夜に、お風呂にあかなめが出てくるようになった。
最初は背中がゾクっとしても、学校のこと、友達のこと、どんな話をしても、あかなめはぽんぽんと調子よく答えてくれるから、会うのが楽しみに変わっていった。

洗面台で、はちあわせ

「きゃー!」

それからしばらくして、お母さんの目の前に突如あかなめが現れた。
お母さんを助けに行くと、洗面台に座ったあかなめが、舌をびろんとのばして言った。
「お風呂がきれいになったから、汚い洗面台の方に来た」

そういえば、お風呂をリフォームした日から、お風呂であかなめを見ていなかった。
このお風呂は汚れにくいから忙しいわが家にぴったりだって、カフェのマスターが教えてくれたの
あの日、お母さんはうれしそうに話していたっけ。

お母さんとおしゃべりできた夜

「邪魔して悪かったね」
あかなめはお母さんをちらりと見ると、洗面台の鏡の奥へ吸い込まれるように消えていった。

その夜、お母さんと話をした。
あかなめは古いお風呂によく現れて、あかなめと会うと、寂しさが少しだけ紛れたこと。
あかなめが話相手になってくれたこと。
私がしゃべり終わると、お母さんは「ごめんね」と言って、少しだけ泣いているように見えた。

もう大丈夫

それからは、お母さんもお父さんも私が話しかけると家事をしている手を止めて、真剣に話を聞いてくれるようになった。
それに、リフォームしたお風呂はいつも明るくてピカピカ。
一人で入っても心細くないから、寂しい気持ちはいつしか消えた。

そして―。
お母さんは洗面台をマメに磨くようになった。

洗面台もリフォームしちゃえばいいのに。

汚れが好きなあかなめもいなくなってしまうリフォームとは、
いったいどういったものだったのでしょうか?