可能性がひらく時間
電気のない村に届いた“安全なあかり”が
ぼくと家族のくらしを、明日を、変えていく――
ぼくの村には電気がない。陽が落ちると、家の外も中も、どこもかしこも真っ暗だ。
「夜は出歩かないようにする」。これが、遠くの街まで出稼ぎに行っているお父さんと、ぼくたち家族との約束だ。
「万一何かあっても、夜間は診療所も診てくれないからな…」。
昼間は畑やヤギの世話をしているお母さんは、夜になると、灯油ランプをともして内職をする。
「うっかり倒したら危ないから、近づいたらだめよ」
このランプは臭いがひどくて、使うと煙で目や喉が痛くなる。好きじゃないけど、しかたない。
ろうそくを使って勉強をすることもあるけど、危ないし、結局手元は暗いままだから、あまりはかどらない。
もともとそんなに学校にも行けていないんだ。お母さんを手伝わないといけないからね。
ある日、庭でヤギの世話をしていると、出かけていたお母さんが帰ってきた。
見慣れない、白くて丸いものを抱えている。
それは何かと聞くと、お母さんが笑った。
「夜になったらわかるよ」
陽が落ちてきた。お母さんは昼間に持って帰ってきたものに手をのばした。
次の瞬間。
あかりがついた!
「こりゃあすごいね。灯油ランプよりずっと明るいじゃないか」と、おばあちゃん。
「そうね、手元がよく見えるから内職もしやすくなるわ。火事の心配が減るのも助かるわね」とお母さん。
ぼくは、夜にこんなに明るくなったことはもちろんすごいと思ったけど、このあかりなら目や喉が痛くならないことがわかって嬉しくなった。
これなら、教科書を読む時間も嫌じゃなくなる。
村の学校にもあかりがついたというので、久しぶりに登校した。
教室の天井には蛍光灯が何本も増えていて、すごく明るい場所になっていた。
友達が「これからはもっと学校に通う」と言う。
こんなに明るくて、友達にも会えるなら、ぼくももっと学校に通おうかな。
実はもうすぐ、お母さんは赤ちゃんを産むんだ。
「診療所にも電気が届くようになったから、もう夜に産気づくのを心配しなくていいのよ」
大きなおなかをなでながらお母さんが言う。
そんなお母さんの笑顔を夜にも見ることができるようになって、ぼくは心があったかくなった。
生まれてくるのは弟かな、それとも妹かな?ぼくがお兄ちゃんとして、なんでも教えてあげたいな。そう、勉強だって。そのためにも、ちゃんと学校に通いたいな。
そうだ、ずっとできていない宿題があったな。
さっそく始めよう!
世界では6億人以上が電気のないくらしを送っています。
使い終えた本やCDのリサイクルであかりを届け、
子どもたちの未来を照らす活動があります